青春ヒロイズム
速足で唐揚げの屋台のほうに向かう私は、自分が下駄を履いていることを一瞬忘れかけていた。
スニーカーを履いている時と同じ感覚で歩いていたら、下駄の前の部分が地面から少し飛び出した石に引っかかる。
前に躓きかけてヒヤリとしたそのとき、後ろから腕をつかまれて引っ張られた。
「大丈夫か?」
ドキッとして振り向くと、星野くんが困ったような顔をして立っていた。
「あ、うん。ごめん。どうしたの?」
びっくりしたのと転びそうになったのを見られて恥ずかしいのとで、星野くんにつかまれた腕を慌てて振り払う。
声を上擦らせる私に、星野くんが微妙そうに苦笑いした。
「いや、深谷が他のとこに並ぶなら俺も一緒に行こうかなって」
「そ、そうなんだ。でも私、ひとりでも全然平気だったのに」
声を上擦らせながら空笑いすると、星野くんがまた微妙そうな顔をする。
「あぁ。でも、買ったもの持つの手伝うやつがいたほうがいいだろ。そうしたら、智ちゃんのとこに残るのは俺より憲だし」
「あぁ。そ、そっか。そうだよね」