青春ヒロイズム
「戻らないの?」
遠慮がちに訊ねると、星野くんが振り向いた。
「喉乾いたから今飲む。深谷も飲めば?」
「あ、うん……」
星野くんの雰囲気に流されるように、私もレモンティーにストローを挿す。
「座れば?」
立ったままジュースを飲もうとしていたら、星野くんにベンチを勧められた。
「あ、うん……」
無表情でカフェオレを飲む星野くんから一人分の距離を空けて、そっとベンチに腰掛ける。
並んでベンチに座ったはいいものの、星野くんはずっと無言でカフェオレを飲んでいた。
妙な雰囲気の沈黙に、何か話題を見つけて話しかけていいものかどうかわからない。
なんとなく余計なことは言わないほうがいいような気がして黙ってレモンティーをちびちびと飲んでいたら、星野くんが唐突に口を開いた。
「この前、俺が智ちゃんのこと無自覚で好きなんじゃないかとか言ってきたじゃん?あれ、やっぱり違うと思う」
「え?」
「智ちゃんと憲が一緒にいるの見たって、微笑ましいとは思ってもそれ以上に何も感じたことないし」
体育祭以来、星野くんとは挨拶くらいしか交わしていない。
体育祭のときに応援席でつい変なことを訊いてしまったけど、星野くんには笑って流されたし。
私の戯言なんて覚えていないと思っていたから驚いた。