0センチの境界線


「雛は女で、前田は男」

「っ……」



声が出ない。
心臓がうるさい。

ドクン、ドクンって。はち切れそうなくらいに動いてる。



「知らねー男、部屋にあげるってどういうこと?」



飛鳥の瞳の中にわたしがいる。

真っ黒な瞳がわたしのこと捕らえたみたいに動かない。



飛鳥だって男じゃん。

飛鳥だって勝手に部屋入ってくるじゃん。

わたしは前田くんと仲良しで、知らない男なんかじゃない。知ってるもん。

前田くんのこと、飛鳥は知らないかもしれないけど、わたしはちゃんと知ってる。


言い返したい言葉、たくさんあるはずなのに。

友達だから、飛鳥は大事な友達だから、ちゃんとそうやって笑って言い返さなきゃいけないのに。





「………その意味わかってやってるわけ?」



────金縛りみたいに、動けないんだ。



< 52 / 288 >

この作品をシェア

pagetop