0センチの境界線
「雛は女で、前田は男」
「っ……」
声が出ない。
心臓がうるさい。
ドクン、ドクンって。はち切れそうなくらいに動いてる。
「知らねー男、部屋にあげるってどういうこと?」
飛鳥の瞳の中にわたしがいる。
真っ黒な瞳がわたしのこと捕らえたみたいに動かない。
飛鳥だって男じゃん。
飛鳥だって勝手に部屋入ってくるじゃん。
わたしは前田くんと仲良しで、知らない男なんかじゃない。知ってるもん。
前田くんのこと、飛鳥は知らないかもしれないけど、わたしはちゃんと知ってる。
言い返したい言葉、たくさんあるはずなのに。
友達だから、飛鳥は大事な友達だから、ちゃんとそうやって笑って言い返さなきゃいけないのに。
「………その意味わかってやってるわけ?」
────金縛りみたいに、動けないんだ。