本日、総支配人に所有されました。~甘い毒牙からは逃げられない~
───18時58分。

そろそろI・Hさんが来店する時間だ。直ぐにお部屋にご案内出来るようにと裏口で待機している。今夜は肌寒く、風も強くなってきた。

チェックインの予定時間よりも遅れること15分後に一台のタクシーが裏口付近に停まった。

サングラスをかけた長身の男の人が降りてきた。スラリと伸びた手足、サラサラの髪、フワリと香るフレグランスの匂い。見た瞬間に一般人ではない雰囲気を醸し出し、足早に私の元へと歩いてくる。

「君がお世話係の人かな?」

「いらっしゃいませ。ようこそお越し下さいました。本日、担当させて頂きます篠宮 恵里奈と申します」

「恵里奈ちゃんね、OK。よろしくね」

サングラスを取らなくても、声のトーンと話し方でI・Hさんが穂坂 一弥だと確信した。テレビで見た話し方にそっくりだ。

私は小さなボストンバッグを受け取り、部屋まで案内する。なるべく人目につかないように利用するお客様が少ない経路で向かう。

「こちらのお部屋で御座います。事前に仰せつかった依頼は全て対応させて頂きます」

「はぁい、ありがと。俺の事、誰だか知ってる?」

部屋の中に案内すると窓から景色を眺めながら、私に問いかけた。
< 101 / 240 >

この作品をシェア

pagetop