本日、総支配人に所有されました。~甘い毒牙からは逃げられない~
ルームサービスの予約の時間になっても女性が来店しなかった。

「……電話してるんだけどね、出ない。どうしたのかな…」

「もう少しだけ待ってみましょう。ルームサービスの時間を変更致します」

ルームサービスの予約の時間は20時となっていて、女性が到着したら調理し始める流れだったが午前0時になっても到着はしなかった。電話連絡も取れない為、フレンチのルームサービスはキャンセルとなり、代わりに二人分の軽食が用意された。

「おやすみ、恵里奈ちゃん。遅くまでごめんね」

「今晩はホテル内におりますので、何かありましたら携帯電話までお知らせ下さい。では、失礼致します。おやすみなさいませ」

穂坂様は落胆している様子で、溜め息ばかりをついては肩を落としていた。高見沢さんに状況連絡をして、ロッカーから手荷物を取り出した。

今日は結局、泊まり込みになってしまった。この時間から寮に帰るなら、泊まった方が安全ではあるが…一人で泊まるのは心細いな。

高見沢さんが泊まり込みになる時は、宿直担当者に言って宿直室を間借りしているらしいけれど、私は仮にも女性である為、それは出来ない。出来ないが故に支配人専用の宿泊部屋を借りている。

支配人専用の宿泊部屋までは薄暗い中を歩いて行かなければならず、行くまでもが試練の一つだったりする。オバケが出そうなんだもんなぁ…、ちょっと怖い。

近くまで行くと部屋の明かりがついていた。

「お疲れ様…」

ノックをしてから部屋に入ろうとすると高見沢さんが顔を出した。

「あ、高見沢さん…」

「結局、女性が来なかったんでしょ?振られたんじゃない?でも仕方ないよね、今までは散々遊んで来たんだし、良い薬なんじゃない?」

高見沢さんは色々と心配だからと今晩は宿直室に泊まると言ってくれたが、何故か、この部屋に居た。奥から聞こえるのはシャワーの水音。

「穂坂様は女性を喜ばせようとして、色々と計画してました。……純粋な気持ちからだと思いますから、そんな事言わないで下さい!」

真剣にプロポーズをしようと計画していた穂坂様に対して、否定的で馬鹿にするような意見は述べて欲しくない。高見沢さんが冗談で言ったかもしれないが、私には許せなかった。
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