本日、総支配人に所有されました。~甘い毒牙からは逃げられない~
───クスクスと笑う一颯さんの近くで身なりを整え、ボタンをつけてから、ホテルに出勤した。ロビーには穂坂様とあすみ様がいらっしゃって私を見つけるなり、深々と私に頭を下げた。

周りには他のお客様も居て、サングラスをかけていても穂坂 一弥と分かるらしく、コソコソ話も聞こえてきたが、二人は気にしていないらしい。

「恵里奈ちゃん、本当に申し訳なかった。どうお詫びしたらよいのか…」

「いえ、二人共、顔を上げてください」

あれだけ世間の目を気にしていたお忍びの穂坂様だったが、幸せいっぱいなのか、他人の事を気にしていないらしい。

「……明日美が結婚をOKしてくれたんだ。お互いの生活の違いはあるけど…支え合って行くつもり。光を消さないように…努力するよ」

「えぇ、何時の日か、光がもっと沢山増えますように願っております」

「挙式はこのホテルで挙げたいな。ね?明日美?」

「はい、このホテルがご迷惑でなければ…是非ともお願いします。こんな素敵なホテルで挙式を挙げれたら、一生の思い出になります」

あすみさんは謙虚な方だな。迷惑なんて、これっぽっちもないよ。

「その時は是非、お手伝いさせて下さいませ」

二人は「有難う」と言って、タクシーも呼ばずに手を繋ぎ、堂々とホテルの外へと出て行った。

「穂坂様の挙式の約束まで取り付けるなんて、さすが篠宮だな!」

「……悔しいけど、なかなかやるね、篠宮さん」

お見送り以外は私を見守っていた一颯さんと高見沢さんが、私を茶化す。

怖い思いもしたけれど、穂坂様が幸せになれて良かったと心から思った。近い将来、二人の晴れ姿を見れますように───……
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