本日、総支配人に所有されました。~甘い毒牙からは逃げられない~
「一条様、そろそろ篠宮を返して頂いても宜しいですか?」

「勿論、お返しするわ。今日は有難う、篠宮さん」

「こちらこそ、有難う御座いました」

ホテル付近になった時にメールを入れておいたので、私達を乗せた車が到着するのを見計らい、一颯さんと高見沢さんがロータリーで待機していた。一条様が降りる際には一颯さんが左手を取り、エスコートしていた。まるで映画みたいなワンシーン。一颯さんの立ち振る舞いに見惚れていると、その事に気付いた一条様が優しく微笑んだ。

「……一颯、ルームサービスを取りやめて、フレンチの席を予約して下さる?」

「かしこまりました。時間は追って連絡致します」

一条様はルームサービスをキャンセルし、エグゼクティブフロア専用のフレンチのお店を予約した。何故、心変わりをしたのだろう?

「それから、食事の間にシャンパンの用意とバスタブの用意が終わったら、今日は用事はないから、一颯は解放するわ。明日の朝、……そうね、10時になったら篠宮さんに荷造りをお願いしたいわ」

「……えぇ、一条様の指示ならば喜んで承ります」

一条様はバトラーとしての一颯さんを解任し、翌日は私がお伺いする事になった。ロイヤルスイートルームはチェックアウトが最大12時まで延長出来る。

一条様を客室にお送りし、別れ際に呼ばれたので近寄ると「貴方、一颯が好きなのね。見ていればすぐ分かるわよ。……良いクリスマスを!」と耳元で英語で囁かれた。見抜かれていた私はとても恥ずかしく、顔が火照った。

仕事も一段落を迎えて帰ろうとした時、
一颯さんからスマホアプリにメッセージが届いていた。今から帰るから少しだけでも会いたい、って。一颯さんのマンションの近くのコンビニまで歩き、待ち合わせ。

コンビニにはクリスマスの売れ残りのケーキが少しだけ残っていたので、飲みきりワインと甘めなカクテルと共に購入した。その他にもおつまみとか色々購入した。

「お疲れ様です!」

「……随分と買い込んだな」

沢山詰まった買い物袋を見るなり、笑われた。さりげなく買い物袋をヒョイッと持ち上げられ、軽くなった右手には一颯さんの左手が繋がれた。
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