本日、総支配人に所有されました。~甘い毒牙からは逃げられない~
「幸田様、これ以上、他のお客様の御迷惑をおかけするならば、お引き取り願えますか?」

腰を下ろし、左膝を立てて、右膝を折り曲げてカーペットに近い位まで近付けた。立ち膝の仕草は、お客様に穏便に対応して頂きたい時にも使うパフォーマンス的な意味合いでもある。

幸田様と私により一層、視線が集まる。

「篠宮さん、立ち上がって。俺はね、篠宮さんが あの男と別れるんだったら許してあげるよって言ってるじゃん?そんな簡単な事なんだよ?」

一颯さんと別れる? 一颯さんとの別れを選択すれば幸田様が引き下がってくれるとは思う。申し訳ないけれど、その選択肢は無いに等しいのだけれども……。

それでも、引き下がってくれるとは思えないから……やっぱり選択しなきゃいけないのかな?

目尻に溜まっている涙がこぼれ落ちてしまうから、顔は上げる事は出来ない。幸田様にも屈服もしたくない。

どうしたら良いのかな……?

いきがって幸田様に反発してしまったが、声も出せずに震えていると、右腕を掴まれて無理矢理に立たされた。

「い、いぶ…、し、支配人…?」

私は驚きの余り、よろめいた。一颯さんは私の事を見ても微笑みはせずに幸田様の目の前に立った。

「幸田様、宿泊約款の当ホテルの契約解除権に基づき、お帰り頂きます。お友達の皆様も申し訳ありませんが、お引き取り下さいませ」

「何だよ?今頃出てきて、支配人気取りかよ」

「お話があるなら客室で聞きます。お友達の皆様、いえ、友達レンタルのアルバイトの方々、これで任務は終了です」
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