本日、総支配人に所有されました。~甘い毒牙からは逃げられない~
行先は支配人室だった。入るなり、扉をの鍵を閉めて抱き締められる。

「一颯さん……?」

「無理させないようにと見守っていたけど、俺が出て行って言おうとしていたセリフをお前に横取りされた」

「えっと……、思い当たるのはお引き取り願えますかですか?」

「その通り」

一颯さんからは笑みが零れていたけれど、抱き締める力が強くて少しだけ痛い。

「……お前が来るな、と言ったのを鵜呑みにして、どう対処するのかも気になって様子見をしていてごめん。良く頑張ったな。あれ以上はお客様にももっと御迷惑がかかるし、お前も限界だったから出て行ったんだ」

「……本当はね、怖かったんです、とっても。でもね、幸田様は私が標的だったから頑張りました。それに……一颯さんとも別れたくなかったし…っん、」

話を遮るように口を塞がれた。

「今度の公休日はいっぱい甘やかしてやる。それにお仕置きもたっぷりとしてやるからな、覚悟しとけ!」

「な、何でお仕置きも?」

「支配人の俺を差し置いて、美味しいセリフを持って行った件について」

「わ、それって…私のせいですか?酷い…」

一颯さんは笑いながら、優しく私の頭を撫でてくれた。

先程に理解出来なかった件は一颯さんに説明してもらって納得がいった。幸田様は一条様の一人息子で、離婚して父方の幸田の姓を名乗っている。そんな訳で、私が幸田様を知らなかった事にも腹を立てていたらしい。離婚したとしても知る人ぞ知る一条グループの御子息なので、近寄って来る人達も多かったのだとか。

幸田様の存在は知っていたが、一条様の立場もあり、守秘義務もあるので一颯さんは私にも明かさなかったらしい。明かさないつもりなら全力で守ろうという誓いを立てた矢先の今回の出来事だった。ちなみに一条様から一人息子が居るとは聞いていたが、離婚していた上に父方に引き取られている事はトップシークレットだったので一颯さんも知らなかったらしい。幸田様は配膳会には一条で登録していたとの事なので、幸田様の事を予約の時点で気付けなかったのも仕方のないことなのかもしれない。
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