本日、総支配人に所有されました。~甘い毒牙からは逃げられない~
グラスにワインを注ぐ姿が、何とも言えずに素敵で様になっている。

「お疲れ様」と言って乾杯をし、口に含むとフルーティな酸味と甘みのバランスが良い辛口の白ワインの味わいが広がった。

甘みが少なくピリッとした舌に残る感覚が私には苦手に感じて、二口飲んだだけで口に運べずにいると左隣から視線を感じた。

「どうした?苦手か?」

「私には辛口過ぎるようです。甘口しか飲んだ事がないので…すみません」

支配人は「お子様だな…」と言いながら、仕方なさそうに立ち上がり、キッチンへと向かう。

「お茶下さい!」とソファーから声をかけたが、聞く耳持たずに出されたのはフルーツ入りのサングリア。

「空いてた赤ワインとお前が買ってきたフルーツを入れてみた。足りない分のフルーツは明日買い足す」

「いただきますっ」

ボルドーの赤ワインに生搾りのオレンジを足し、キウイとイチゴも加えてある。

一口飲むと甘みが増した赤ワインが口の中に広がる。

「美味しっ」

ご丁寧にもフルーツも食べられるようにとスプーン付きだったので、フルーツを掬い支配人に「食べます?」と聞く。

私がスプーンを持つ手を握り、自分の口をスプーンまで近付けてパクリと食べた。

「…味見はしたが、フルーツを食べると想像よりも甘かったな」

「甘くて、一日の疲れが取れますね」

支配人には甘すぎたのか、辛口の白ワインを口に含み、口直しをしているみたいだ。隠れ甘党男子でも、いや、隠れだからこそ、お酒は辛口が好きらしい。

「……支配人はワイン好きですか?」

「そうだな。辛口を好むから主に白だな。お前は甘い酒なら飲めるのか?」

「はい。甘いお酒ならなんでも飲みます」

「そうか、覚えておく」

サングリアを飲みながら、途中でフルーツも食べる。繰り返している内に思考回路がグルグルとしてきて、眠気も襲ってくる。

支配人がテレビを見ながら世間話をしていたが、その回虚しく瞼が重くなっていた。
< 58 / 240 >

この作品をシェア

pagetop