本日、総支配人に所有されました。~甘い毒牙からは逃げられない~
「…っはぁ、ひっ、さしぶりに走ったら、息切れ…です。何故走ったのですか?まさか、職場の方が居ましたか?」

息も途切れ途切れの中、私は問いかける。買い物している間に夕方になって、海の風が少しだけ汗ばんだ身体に心地好く通り過ぎて行く。

「うん、まぁ、…そんなところ。ごめんな、急に走らせて」

「大丈夫です。一颯さんの立場上、見つかったら大変ですもんね」

「別にそんな事は気にしないんだけど…そういう事じゃないんだ。もう忘れて」

ポンポンと頭を軽く叩かれて、再び、手を繋がれる。「忘れて」と言われたので、これ以上は詮索するのはよそう。きっと一颯さんの事情が何かあったのだろう……。

私は久しぶりに走ったせいで心臓がまだドキドキしているのに一颯さんは平然としている。

「一颯さんは学生時代に何かスポーツしてましたか?」

「うん、陸上部だった。短距離と高跳びを掛け持ちしてた」

「なるほど。納得しました」

一颯さんは陸上部のエースだったに違いない。想像すると楽しいけれど、女の子達が一颯さんに群がる姿は想像したくないな。

夕方の砂浜を歩いた後、夕食は海岸近くのホテル内のレストランに移動した。

「いらっしゃいませ、真壁様」

窓際の予約席に案内されると夜景がキラキラと光輝いていた。

「残念ながら運転なのでノンアルコールのメニューをお願いします。こちらには甘めのシャンパンを」

「かしこまりました」

ドレスコードはないみたいだけど、フレンチなのかな?ナイフとフォーク以外にもお箸も置いてあるから創作料理?

「恵里奈、アラカルトにするか、コースにするか、どっちでも好きな方にして」

「一颯さんにお任せします」

「じゃあコースにしようか?何が良い?」

「えっと…えっと…。一颯さんにお任せします」

差し出されたメニューを眺めても、どれも気になってしまう。普段は食べられない美味しそうな料理の数々。

「優柔不断な奴め。それなら、別々のコースを注文しよう」

一颯さんはテキパキと注文し、気になった料理の内容まで聞いていた。
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