慈愛のケモノ

同じようにしてそれを見た遠月さんの口が徐に開いた。

「俺、執念深い奴だから」
「え?」
「逃げたら、追いかけるよ」

何の宣言だ、と思う自分と、やれるもんならやってみろ、と思う自分がいる。
それから、手が離された。

すぐに札を遠月さんのジャケットのポケットにねじ込み、逃げるようにして会社の裏口へと入った。すぐそばに入口があって良かった。

フロアに戻る前にトイレに寄って、息を整える。
すぐに遠月さんの連絡先を呼び起こして、削除した。

もう絶対、会わない。


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