慈愛のケモノ
脈絡のないその言葉が太い鉄の棒のように、心臓を貫いたのを覚えている。
『あんたは、誰にも愛されない』
母のその数年後、肝臓を悪くして亡くなった。
その亡骸を見ながら、あの言葉の意味を考えていた。
誰にも愛されない、ということは、私は母にも愛されていなかったのか。
ぼんやりとそれを思って、これから先、私を愛する人もいないだろうと踏んだ。
母親にさえ愛されなかった私を、誰が好きになってくれるんだろう。
「――ぎ、深萩」
前から声が聞こえて顔を上げる。先輩が電話を示していた。
「外線、この前の、デザイナーの」