あなたの名前を呼びたい〜声を失った歌い手〜
朝目を覚ますと、いつも隣にはあの人がいてくれている。十九歳のあたしよりずっと歳上の二十七歳で、大人の色気のあるかっこいい人。

(……おはよう)

口をパクパク動かして、あたしは愛おしいその寝顔にそっと唇を落とす。キスをすることにやっと慣れてきた。

パジャマからブラウスとスカートに着替え、朝ご飯を作る。今日は少し早く目を覚ましたから、ちょっと凝ったものでも作ろうかな。エッグベネディクトとか。せっかくの日曜日だもん。

あたしは今井(いまい)ひなみ。大学生。さっき隣で寝ていたのは、あたしの恋人の宗方伊久巳(むなかたいくみ)さん。彼は世間ではすごく有名人なんだ。

「ひなみ、おはよう〜」

まだ寝ぼけているのか、あくびをしながら伊久巳さんはあたしに抱きついてくる。調理ができないからやめてほしいな……。

あたしは「離れてください」と言おうと口をパクパク動かす。でも、あたしの喉から声は出てこない。仕方なくあたしは自分の手でポンポンと伊久巳さんの腕を叩いた。
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