あなたの名前を呼びたい〜声を失った歌い手〜
「ひなみちゃん!ごめん、ごめんね。俺がついていながら本当にごめん……」

失声症のことをLINEで伝えると、すぐに伊久巳さんは飛んできてくれた。そして、あたしを抱きしめて泣きながら謝ってくれた。その時、胸が温かくなってあたしの目からも涙がこぼれたんだ。

「これからはちゃんと守るよ。一緒に暮らそう」

そう言い、伊久巳さんは手を差し伸べてくれた。アンチのことを考えると怖かった。でも、伊久巳さんを失うことの方が怖くて、あたしはその手を取ったんだ。



それから、あたしは歌い手エイミーを無期限の活動休止にして伊久巳さんのマンションで一緒に暮らしている。失声症に理解のある大学に進学して、家事をして、伊久巳さんと愛し合って、幸せに暮らしていると思う。

歌い手エイミーを引退じゃなくて休止にしているのは、まだ歌いたいという気持ちが少し残っているから。伊久巳さんはそれを応援してくれている。

「ひなみ、こっち来て」
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