あなたの名前を呼びたい〜声を失った歌い手〜
伊久巳さんに呼ばれて近づくと、ふわりと抱きしめられる。伊久巳さんのいい匂いがした。

「ワンマン終わったからたっぷり甘えさせて〜」

伊久巳さんはライブで忙しかった。たくさん甘やかしてあげたい。あたしはコクリと頷いて伊久巳さんの頭を撫でる。

「ひなみの甘やかしてくれるところ好き〜」

伊久巳さんはそう言い、あたしにそっと唇を重ねる。チュッとリップ音が響いた。

その後は二人で買い物をしたり、借りてきた映画の続きを見たりして過ごした。あたしはずっと伊久巳さんのそばにいて、常に伊久巳さんの温もりに触れている。

幸せなはずなのに、あたしの声はまだ戻らない。もう一生このままなのかな。そう思うと不安になる。

「ん？どうしたの？」

伊久巳さんは不安になっているとあたしに微笑みかけて、すぐに抱きしめてくれる。そういう人だから好きになったんだ。

早く、声を出せるようになりたい。そう思いながらあたしは伊久巳さんに抱きついた。
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