仮面花嫁~極上社長は偽り妻を乱したい~
ゆっくり近づく距離
ただ彼の友達に会うだけ。そう簡単に考えていた優莉だったが、いざその日になると容赦なく緊張に包まれる。それもこれも恋人を演じなくてはならない重圧のせいに違いない。
なにしろ優莉は彼氏いない歴イコール年齢。ごく普通に恋はしたけれど、一度も実ったためしはなく片想いばかりだ。
恋人同士がどんな雰囲気なのかわからないし、どう接するのが恋人なのかも未経験。それなのに想像だけは逞しく育っているから、余計に始末が悪い。
隼に連れられてやって来たのは、彼の友達が住むという立派な低層マンションだった。隼のマンションと同等クラスと思えるそこは、エントランスロビーの奥に手入れの行き届いた中庭が広がり、ここが都心だというのを忘れそうなくらいに清々しい光景だ。
ピカピカに磨き上げられたエレベーターの扉を前にして、優莉は何度も深呼吸をしていた。
「そんなに緊張するなって」
不意に手を繋がれ、鼓動も肩も飛び跳ねる。
ふりとはいえ、ここでは恋人なのだから手を繋ぐのは普通。隼も演じるつもりでそうしているのだろう。そうわかっていても体中に力が入ってかなわない。
隼はきっと、それが緊張を増長させているとは思わないのだろう。
到着したエレベーターに乗り込み、三階で降りる。