仮面花嫁~極上社長は偽り妻を乱したい~
父親が幼い頃に亡くなり母の代わりに家事をしていたのだと打ち明けると、佳乃は「大変だったのね」としんみりした面持ちになった。場がしめやかな雰囲気になりそうだったため、慌てて明るく返す。
「でも、お料理は大好きなので」
「そう。それはよかったわ」
苦痛に感じたことは一度もない。おいしいと言ってもらえたら、それだけでうれしかったものだ。
今だってそう。隼がおいしいおいしいと食べてくれるから、次はなにを作ろうかと考えるのが楽しい。
「あら? 隼ったら、優莉さんにまだ指輪もあげてないの!?」
佳乃がいきなりガラッと話題を変える。優莉の左手をまじまじと見て目を丸くした。
「あぁ、うん、そうだね。急な話だったから」
さすがの隼も慌てたように弁解する。優莉はその隣でこくこくとうなずいた。
「婚約って言っても、ふたりだけの間の口約束でしょう? 早く優莉さんの親御さんにもご挨拶に行かなくちゃならないわね」