仮面花嫁~極上社長は偽り妻を乱したい~
『花崎さんがよろしければ、うちが管理するべつのアパートを手配しようと考えておりますが、いかがでしょうか。もちろん敷金礼金は必要ありません』
さらに住む場所まで手配してくれるというではないか。
予想もしていなかった申し出が優莉の心を大きく惑わせる。
隼のマンションはもともと仮住まい。婚約者という仮面をつけて、いつまでもいられる場所ではない。
このまま長く一緒にいたら優莉の隼への想いは膨らむいっぽうだろう。それなら早めに手を打って、自分の気持ちをとどめておかなければならない。
「ぜひよろしくお願いします」
明日までに新しいアパートの詳細を知らせてもらうことで合意し、電話を切った。
それまで漠然としていたが、マンションを出るのが急に現実味を帯びてくる。一ヶ月弱、本当にあっという間だった。
自分の誕生日はもちろんバレンタインデーをすっかり忘れていたが、今日は隼へのお礼もかねてどこかのパティスリーでチョコレートを買って帰ろう。
そう決めて優莉は仕事へ戻った。