仮面花嫁~極上社長は偽り妻を乱したい~


◇◇◇◇◇

定時で仕事を上がり、一番近いパティスリーへ走る。隼へ渡す感謝の気持ちのチョコレートを買い、指定された待ち合わせ場所へ大急ぎで戻った。

バレンタインのロゴで溢れた街が、とても華やかな雰囲気になっていることに今頃になって気づく。向かいのビルの電光掲示板には〝ハッピーバレンタイン〟の文字が何度も流れては消えていった。

約十分後、目の前に隼の車が横づけにされ、下がったパワーウインドウから彼が顔を覗かせる。


「優莉、乗って」


軽くうなずいて助手席のドアを開ける。「失礼します」とひと言断り、シートに体を滑らせた。


「どなたかに会うんですか?」
「なんで」
「また恋人のふりをして会わなきゃいけない相手がいるのかなって」


そうでもなければ隼が優莉とデートする理由がない。


「違うよ。今日は優莉の誕生日だろう」
「え……覚えていてくださったんですか」

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