仮面花嫁~極上社長は偽り妻を乱したい~
隼の誕生日はひな祭りの日だから約二週間後だ。
優莉がふふっと笑うと、隼は笑いながら軽く睨んでよこした。
こんな何気ない会話が楽しくて、つい離れがたくなる。マンションを出る決意が振り子のように大きく揺れた。
でもダメ。もうこれ以上一緒にいたら辛くなるだけだから。
そう自分に言い聞かせていると、イカとオクラを和えた先付が運ばれてきた。
こうして改まった場所で隼と食事をするのは、なんとも不思議な気分である。マンションと同じように向かい合って食べているのに緊張するのは、懐石料理という優莉には少し敷居の高いイメージのせいだろう。静かな個室というのも心許ない。
「隼さんのお母様はこういった料理も作るんですか?」
もう会わないだろうし聞いてどうするのかとも思ったが、静かな場の空気に馴染めないため咄嗟に思い浮かんだ質問だった。
「和でも洋でもなんでも作るかな。創作料理だから特別これと分類できる料理とも違う気がする」
「きっと小さい頃からおいしい料理を食べ慣れていますよね」
「俺? いや、実験台だったと言ってもいいかもしれないな」