仮面花嫁~極上社長は偽り妻を乱したい~
「ほかの人に譲ってはいけない、権利を放棄するのもダメと言われたので」
隼の気持ちの負担を軽くするために正直に打ち明けたが、仕方なくここにいるという言葉はさすがに飲み込んだ。
隼は目をぱちくりとさせてから、ふっと軽く笑った。
「まさかそうくるとはね」
「……はい?」
「あ、いや、なんでもない」
隼は頭を振り、「じゃあ行こう」とシフトレバーをドライブに入れた。
「なにかリクエストは?」
「はい? リクエスト?」
要望を聞かれるとは思いもせずオウム返しになる。
「行きたい場所だとか、こんなふうに過ごしたいとか。具体的になにかあれば。まぁ、気が乗らないみたいだから、そんなものはないか」
ククッと笑って肩を揺らす。なぜか楽しげだ。
気が乗らないのは事実に違いないが、だからといってすべてを隼に任せるのも失礼だろう。自己主張があまりにもないのもどうかと思う。