仮面花嫁~極上社長は偽り妻を乱したい~
「沖縄で?」
「いえ、父が亡くなる前は家族で東京にいたので。ホテルのフレンチレストランにいたんです」
亡くなったのは優莉が小学校六年生のときだったため、おぼろげな記憶ですっかり薄れている。
「ホテルってどこ?」
隼は興味津々に身を乗りだした。同じ業界のため気になるのだろう。
「『ル・シェルブル』だったと母から聞いています」
その高級ホテルは今もあり、社会人になったときに一度だけラウンジでお茶をしたが、あまりにも場違いな気がしてそそくさと紅茶を飲んで帰った過去がある。本当は父親が働いていたレストランへ行きたかったが、本格派と名高い店のため諦めた。
「ル・シェルブル?」
隼の声のトーンが一段上がった。意外な場所だったのだろうか。
優莉が首を傾げながらうなずくと、隼はさらに質問を続けた。