仮面花嫁~極上社長は偽り妻を乱したい~
「店の名前は? 何年前の話?」
「店の名前は覚えていないです」
母親から聞いた覚えはあるが、フランス語表記だったため記憶は曖昧だ。
「私が小学校六年生のときに亡くなったので……十一年くらい前でしょうか」
隼はこれ以上ないくらいというほど目を見開いたが、少しして今度は「でも違うか」と椅子に背中を預ける。
「花崎さんというシェフはいなかったもんな」
隼がいったいなにを言いたいのかわからず、優莉が不思議そうな目で見つめていると、その目線に気づいた彼がハッとして説明をした。
「俺が大学生のときにアルバイトしていたのもル・シェルブルのフレンチレストランだったんだ」
「そうなんですか」
「でもそこのシェフは宮前という名前だったから」
「えっ、宮前は私の旧姓です」
隼も優莉も、まばたきを忘れて見つめ合う。時間まで止まった気がした。