仮面花嫁~極上社長は偽り妻を乱したい~
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クールブロンのシェフたちが引き抜きにあっているらしい。
隼がそんな報告を人事部長の大久保から聞かされたのは、新規店舗のオープンまで残り一ヶ月とわずかというときだった。
優莉を手に入れて一週間。幸せな日々を送っている隼には、かなり強烈なダメージである。
もしかしたらその可能性もあるかもしれないと考えてはいたが、それが現実のものになったのだ。
「引き抜きの相手は?」
「『ミニョンミネット』です」
隼の質問に大久保が答えた。
ミニョンミネットといったら、ここ最近クールブロンの店舗周辺への出店に加速度をかけている関西の企業だ。しかもその社長は、隼と因縁のある男である。
独立以前に勤めていた外食産業の企業で一方的にライバル視され、なにかにつけて絡んできた男なのだ。極めつけは、その男が好意を寄せる社内の女子社員が隼を好きになったことだった。
隼自身に特別な感情はなく単なる同僚のひとりだったが、男はひとりメラメラと闘志を燃やし、それがいつしか恨みへと変わった。彼女の気持ちがまったくその男に向かないのを隼のせいだと思い込んだのだ。