仮面花嫁~極上社長は偽り妻を乱したい~
仕事とは関係のない痴情のもつれで男との関係性はさらに悪化。独立するために退職してそれっきりだったが、またこうして相対するとは皮肉だ。
「あっちはどんな手を使って引き抜きを?」
「これは先日退職願を出してきたシェフにしつこく問いただして聞いた話なんですが、報酬はうちの一.五倍。料理に使う食材には金の糸目はつけないと。自由になにを使ってもいいからと言われたそうです」
「それで会社がやっていけると思っているのか」
だとしたら相当とんちんかんな経営者だ。
以前一緒に働いていたときも仕事のやり方は杜撰で、はなから隼の相手にならないような男だった。それなのに一方的にライバル視され、ことごとく突っかかってきたのを思い出し、嫌なものが込み上げる。
大久保も目の前で首をひねった。
「新店で採用が決まっていたシェフもスーシェフも、ミニョンミネットに揃って引き抜かれています。先ほど人事部に連絡が入りました」
「新店まで?」
なんて男だ。再び隼とやり合うつもりらしい。しかも姑息な手段を使うとは、なんと情けない男なのか。