仮面花嫁~極上社長は偽り妻を乱したい~
ひとりの社員がそう尋ねたときにはじめて、優莉は隼の隣に手足が長くすらっとした長身の女性が立っているのに気づいた。
フランス人と日本人のハーフというだけあって、目鼻立ちのはっきりとした美人だ。肩までの栗色の髪は美しいウェーブを描き、肌が透き通るように白い。
外国の人は年齢がわかりにくいが、三ツ星レストランのシェフを務めるくらいだから若くても三十代前半だろう。
「そうなんだ。こちらはソフィア・ルグランさん」
「ソフィアです。どうぞよろしく」
落ち着いた声色にクリアな日本語だった。
静かな微笑みの中にも意思の強さを感じさせるあたりに大人の余裕がある。彼女の前に堂々と歩み出て挨拶をする度胸は優莉にない。エレガントな彼女に尻込みして、一番うしろでみんなに合わせて頭を下げるので精いっぱいだった。
事業部に戻るや否や、隼が帰国した話題でもちきりになる。
「噂通りの美人だったよね」
「あの社長の隣に立っても違和感ないもんな。逆にお似合いっていうか」
「社長の要請に応じたんだから、いよいよ恋人昇格?」
「そうじゃない? じゃなかったら三ツ星レストランから引き抜きなんてできないでしょ」