仮面花嫁~極上社長は偽り妻を乱したい~
フランスから来て二日。いくらソフィアが有能なシェフでも、勝手の違うレストランでの調理に戸惑わないわけがない。それが大事なオープンともなれば、隼はなおさら目を離せないだろう。帰国してからマンションにも帰れなかったほど、隼も必死なのだ。
それがわかっているから、隼とソフィアに対して邪な想いを抱く自分が嫌になる。真剣に仕事をしているふたりに対して失礼だ。
そう思う反面、ときおり厨房で接近しているふたりが目に入るたびに胸にモヤモヤしたものが鬱積していく。優莉は、複雑に切り替わる心を自分でも持て余していた。
ずっとピークタイムのような忙しさが続き、ランチタイムの終了時刻まであと二十分というとき。ひとつのテーブルがふと目に留まる。
そこに座るのは、ひとりで来店した三十代後半と思しき男性客。彼は周囲を気にしながら、着ているジャケットのポケットに手を入れ、そこからなにかを取り出した。手のひらに隠れるくらいのものだ。
なんだろう……。なにを出したのかな。
どことなく不審な挙動に妙な胸騒ぎを覚える。何気ないふりを装って優莉がゆっくり近づいていくと、そのお客は手付かずのトリュフとパンチェッタのライスヌードルの上で手を開いて逆さまにした。
――もしかして。