仮面花嫁~極上社長は偽り妻を乱したい~

その仕草が優莉の胸をドキリとさせる。足を速め彼のテーブル脇に立った。


「お客様、大変申し訳ございませんが、今なにかを――」
「な、なんの言いがかりだ。俺はなにもやってないぞ」


優莉が具体的に指摘しようとするより早く、お客は椅子をガタンと鳴らして立ち上がった。
穏やかな店内がにわかにざわめく。そっと声をかけて静かに場を収めようとした優莉の思惑は、失敗に終わった。


「ですが」
「この店はお客に難癖をつけるのか」


さらに声のトーンが一段上がり、店内がしんと静まり返る。優莉はビクッとして肩を震わせた。


「申し訳ありません」


優莉が勘違いをしたのか。見間違いだったのか。怪しいと思ったがための錯覚だったのか。
いずれにしてもお客が怒りをむき出しにしている今、優莉には謝罪する以外になかった。


「お客様、どうかなさいましたか」

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