仮面花嫁~極上社長は偽り妻を乱したい~
騒ぎに気づき、静かに声をかけてきたのは隼だった。場にそぐわないほど穏やかな声色だ。
「この店員が俺にいちゃもんをつけてきたんだ」
指を差して憤慨され、再びビクッと体が震える。こんな事態に遭遇するのははじめてだった。
「社長、申し訳ありません」
か細い声で謝罪する。
お客を疑い、優莉はとんでもない失態を犯してしまった。
「お客様、ここにはほかのお客様もいらっしゃいます。こちらへお越し願えませんか」
隼はお客にそう優しく語りかけ、怒りを鎮めようと必死に見えた。オープン初日、お客とのトラブルはもっとも避けたい事態だ。
優莉が体をすくませていると、ふたりがその脇を通り抜けていく。
「花崎さん、ここは心配しなくていいから本社に戻っていいよ」
隼はすれ違いざまに優莉に小さく声をかけた。