仮面花嫁~極上社長は偽り妻を乱したい~
「な、なんの話だ。そんなの俺は知らないぞ」
「どうあがいても無駄ですよ。こちらではすべて把握しています」
隼は努めて冷静に話した。
「高村から指示され、あなたもやむなくしていたのでしょう」
勤め先の社長から命令されれば、それが悪だとわかっていてもやらなければならない事情を抱えた人間もいる。事実、榊原には病床の母親がおり、高額な医療費を必要としていた。
高村はそこに付け込み、榊原を動かしていたのだろう。卑劣という以外にない。
「あなたの事情はわかりますが、同じフレンチレストランのシェフとしてどうお考えでしょうか。彼らシェフたちがどんな思いで料理を作っているか身をもっておわかりですよね」
そこに異物を混入させるのは、シェフのみならず料理や食材を冒とくするも同じ。シェフである榊原は自分自身も傷つける行為をしていたのだ。
榊原はぐっと唇を噛みしめ、両膝の上で握り拳を作った。
「……仕方なくだったんだ。仕方なく……」