仮面花嫁~極上社長は偽り妻を乱したい~
観念したのだろう。彼がポツリと呟く。心の声が思わず漏れたような声だった。
「社長から母の医療費を工面してやるからと……」
そこから榊原は堰を切ったように話しはじめ、後から後から高村へのやるせない想いを吐き出していく。以前勤めていたレストランが閉店し、シェフとして再スタートを切ったばかりだったという。
「高級食材を扱うというのは表向きだけ。裏では偽装工作のオンパレード」
自然卵料理には液卵を混ぜ、ビーフソテーには牛脂を注入した肉、魚市場直送と謳った魚料理には冷凍もの、有機ではなく普通の野菜を使用するという呆れ返るくらい食品の偽装に手を染めていたと。
ミニョンミネットの運営方法に不信感を募らせていたものの、母親の医療費には代えられず高村の指示するままに動くしかなかったようだ。
優莉とミニョンミネットで食事をした際、隼が抱いた違和感はまさにそれだった。メニューの説明書きにある〝高級〟〝自然〟〝直送〟というワードとのズレを感じたのだ。
「ここらで潮時ではないですか。高村に加担するのはもう止めるべきです」