仮面花嫁~極上社長は偽り妻を乱したい~
◇◇◇◇◇
ストローから口を離すと、汗をかいたグラスの中で氷が涼しげな音を立てる。
「今、なんて言ったの?」
優莉は目の前に座る明日美を食い入るように見た。
涼を求めてカフェに集まった客たちのざわめきが、唐突に聞こえなくなる。
「だからね、私、結婚するかもしれないって」
「え? 明日美が?」
優莉がしつこく聞き返すと、明日美は「何度言わせるの?」と苦い表情になった。
「結婚はまだいいっていつも言ってたから」
「そうなんだけどねー。なんかそういう流れに」
同じ歳の明日美が結婚すると聞き、自分にはまだ遠い話だと思っていたものがいきなり身近になる。
隼の婚約者としてあのマンションに住んではいるが、あくまでも偽り。結婚は現実味がなく、自分とは関係のないものだと漠然と考えていた。
――それなのに。