仮面花嫁~極上社長は偽り妻を乱したい~
佳乃にとって、優莉は隼の婚約者のままだ。
明日美が結婚を決意したと聞き、一気に身近になったものが今またここで話題に上がり、隼の手前どんな反応をしたらいいのかわからない。前回、佳乃にその話題を振られたときと今とでは、優莉と隼の関係性がまったく違うからだ。恋人ではあっても婚約者ではない。
「母さん、その話なら俺に任せてって言っただろう?」
チラッと優莉を見た隼が慌てたように言う。その様子から困っているのが手に取るようにわかるから、優莉は隣で曖昧に微笑むしかできない。
「隼に任せていたらいつになるのかわからないんだもの。お父さんも優莉さんに会うのを楽しみにしてるんだから」
「わかってるよ」
「優莉さんの花嫁姿、隼も早く見たいでしょう?」
「あ、あのっ」
返答に困っている隼をこれ以上放っておけず、優莉は思わず口を挟んだ。優莉との結婚を考えていない隼に余計な負担をかけたくない。
ふたりの目が揃って優莉に向けられる。
「お母様、ご一緒に夕食はいかがですか?」
話を逸らす作戦だ。
「でもいいの? 邪魔にならない?」
「邪魔だなんて全然。それじゃ、私すぐに準備をしますね」
残りのショコラを一気に口に詰め込み、コーヒーで流し込む。最後は味わうどころではなかった。