仮面花嫁~極上社長は偽り妻を乱したい~
「無人島に置いてきぼりってわけじゃないんだ。自分で帰れるだろ」
たしかにそうには違いないが、撮影の途中で逃げたのは今さらながら申し訳ない。
エンジンがかけられ車が発進する。
「宇賀さん、ごめんなさい」
優莉が振り返って両手を合わせると、隼はハザードランプを三回点滅させた。〝ごめん〟と伝えたつもりだろう。
広い駐車場を抜けて道路に出る手前の信号で止まると、隼と不意に目が合った。
どちらからともなく笑みがこぼれ、ふたり一緒にクスクスと笑う。
「走って疲れたけど楽しかったです」
久しぶりに鬼ごっこをした気分だ。
「だな」
「喉、乾きませんか?」
バッグからすっかり冷めたお茶を取り出す。走って温まった体にはかえってちょうどいいかもしれない。