仮面花嫁~極上社長は偽り妻を乱したい~
史上最悪の受難
クールブロン本社、社長室。
隼は昨日までの各店の管理状況をパソコンでチェックしていた。売上に始まり客単価、従業員の生産性、エリアの統括マネジャーのコメントなど多岐にわたる項目に目を通すのが毎朝の日課である。
近々、居抜き物件へ新規出店の予定もあり、近隣店舗の動向も気になるところだ。
大学を卒業後、外食業界で働いていた隼は二十八歳のときに独立。クールブロンを立ち上げ、フレンチレストランの一号店を銀座に構えた。
フランスへ飛んで腕のいいシェフをヘッドハンティングし、満を持してのオープンだった。
そもそもこの業界に興味をもったのは、大学時代に高級ホテルのフレンチレストランでアルバイトをしていた経験が大きい。そこで出会ったシェフに『キミは経営の才覚がある』と言われたひと言がきっかけだった。
たったそれだけで自分にも大きな仕事ができるかもしれないと隼が自信をもてたのは、怖いもの知らずの若さゆえだろう。でも、彼のその言葉がなければ、今の隼はなかったと言える。
そのシェフとは年齢こそ離れていたが、彼から聞く食の話は大変興味深く、店が終わった後もよくふたりで話していたものだった。
『おいしいものは世界を救う』というのが彼の口癖で、一時は隼にもそれが移り、なにかにつけて引用していた言葉でもある。