仮面花嫁~極上社長は偽り妻を乱したい~
一号店開店から九年、三十店舗を抱えるクールブロンの業績は現在順調に推移しているが、都心は同業他社の激戦区。昨年も関西に拠点を置くフレンチレストランが、近くに一店オープンし注意は必要だ。
「社長、人事の大久保部長が少しお時間を取れないかとおっしゃっております」
ノックの後に入室してきた秘書の森尾美穂が、ドア付近に立ったままお伺いを立てる。
スラッとしたスタイルに二重瞼のはっきりとした顔立ち。社内でも評判の美女である美穂は、三十歳の既婚者だ。
隼が通すように答えると、美穂と入れ違いで大久保が入ってきた。
「社長、おはようございます」
銀縁のオーバルメガネが神経質そうな印象だが、整髪料で固めたオールバックというワイルドなヘアスタイルがそれを帳消しにしている。隼の大学時代の二年後輩で頼れる男である。
「おはよう。座って」
社長の執務デスクの前にある黒い革張りのソファを勧め、隼は向かいに腰を下ろした。