仮面花嫁~極上社長は偽り妻を乱したい~

あれが全社員の目に晒されるのかと思うと、いたたまれない気持ちになる。


「はぁ、それにしても本当に羨ましい!」
「明日美には彼氏がいるでしょ?」
「それとこれとは話がべつなのー」


そのあたりが優莉にはさっぱり理解できない。

彼氏がいたら、ほかの男の人なんてどうでもいいものじゃないの?

首を捻ってみてもわからない。それもこれも恋愛経験の乏しさのせいだろうが、そこまで女性の心を虜にする隼は罪つくりだと思わずにはいられなかった。


路線の違う明日美と駅で別れ、電車に揺られること二十分。改札を抜けて駅を出ると、そこから十分歩いた場所に優莉のアパートはある。

マフラーを巻きなおして歩いていると、遠くからけたたましいサイレンの音が近づいてきた。それも一台や二台ではない。消防車が優莉の横を進行方向に四台も通過していく。


「火事?」


空気が乾ききっているこの時期は枯れ草から自然に発火もするそうだから、またそういった類だろうか。

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