仮面花嫁~極上社長は偽り妻を乱したい~
「その割には消防車の台数が多いかな」
ひとり言をポツリと呟きながら歩き続けていると、次第に鼻先を煙の臭いがかすめる。目の前の空に黒煙が上がり、建物の隙間から炎も見えた。
「えっ、まさか違うよね」
優莉のアパートの方角だったのだ。
自然と歩調が速くなり、次第に駆け足になる。心臓はドクドクと嫌な音を立てて早鐘を打ちはじめた。
アパートに近づくにつれ予感が現実に変わっていく。
「すみません、通してください」
野次馬たちの間をすり抜け、人だかりの一番前までようやくたどり着いた優莉は、目の前の光景に茫然とするしかなかった。
優莉の住んでいたアパートが燃え上がる炎に包まれていたのだ。
嘘、でしょ……。
消防車からの放水が幾重にも伸びる。黒煙を上げて燃えるアパートはみるみるうちに壁がなくなり、原形を失っていく。
離れて立つ優莉まで焼かれるのではないかと思うほど熱かった。