仮面花嫁~極上社長は偽り妻を乱したい~

間合いを詰めた隼の前から咄嗟にぴょんと飛び退いた。反動でぐらついたが、隼が腕を掴んでくれたおかげで立てなおす。


「そうする元気があるのなら大丈夫だな」
「……え?」
「ま、あんまり落ち込むな」


水族館でやられたときのようにわしゃわしゃと髪を撫でまわされ、最後にリズムよくポンポンとされる。
ニコッと笑った隼はバスルームへ向かった。

……もしかして励ましてくれたの?

その背中をボーッと見つめながら考える。

さっきの飴といい、隼なりに元気づけようとしてくれているのかもしれない。
そういえば、まだきちんとお礼もしていなかった。

行くあてのない自分をマンションまで連れてきてくれた隼に〝ありがとう〟も言っていない。
お風呂から出たらしっかり言おう。
うん、と力強くうなずき、隼に呼ばれてバスルームへ向かった。

パウダールームとの間がガラス張りになったラグジュアリーなバスルームは、あたたかな色味のタイルが優しさを感じさせほっとする。並々とお湯を注がれた楕円形のバスタブで冷えた体をゆっくり温めたおかげで、火事のショックもずいぶんと和らいだ。

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