強引な副社長の婚前指南~偽りの極甘同居が始まります~
偶然と出会い
「恒さん、今日はおまかせで」
三年前に偶然見つけた隠れ家的バー『B&R(BLACK&RED)』のカウンターに座り、頬杖をつき嘆息を漏らす。
バーはお酒はもちろんのこと“空間も楽しむ場所”というように、少し照明を落とした木目調で落ち着いた雰囲気店内はいつ来ても心地いい。でも今日は、少し気分が違った。
「どうしたの、芳奈ちゃん。今日は元気ないね。何かあった?」
そう話しかけてくれるのは、この店のオーナー大場恒芳さん。通称恒さん。
バックバーに手を伸ばした恒さんは、カンパリリキュールを手に取る。背格好から見て、歳は四十歳くらいだろうか。いつも人懐っこい笑顔を見せてくれる素敵なマスターだ。
でも今の私には、恒さんの呼びかけや笑顔にも、いつものように明るい表情を返すことができなかった。
「取り返しのつかない嘘をついちゃった……」
もう一度深いため息をつき、カウンターテーブルに突っ伏す。
咄嗟なこととは言え、どうしてあんな嘘をついてしまったのか。適当に誤魔化せばあの場は上手く収まる──そう思っていたのに。まさか私の好きな人が、クリキホールディングスの副社長だと勘違いされてしまうなんて……。