強引な副社長の婚前指南~偽りの極甘同居が始まります~
タワマンとキスマーク
世の中というのは恐ろしい。
今日の朝まで親元で暮らしていたというのに、何がどうして彼氏でもない八雲さんと“同棲”することになってしまったのか。当初の予定と全く違う状況に言葉も出ない。
「はい、芳奈。当分の着替えなんかは入れてあるから。またおいおい送るわね」
大きなスーツケースいっぱいの荷物を渡され、これは夢ではなく現実のことなんだと天を仰いだ。
「お母さん、ほんとにいいの? 私がいなくて寂しくない?」
「全然。だって一生の別れじゃないんだし、女の子は好きな人と一緒にいるほうが幸せなのよ」
「幸せ……」
母の言うとおり。好きな人と一緒なら、それはとても幸せなことだと思うけれど。
今の私たちはお互いに、好きとか愛してるとかそういった存在ではない。ひとり暮らしを飛ばして八雲さんと同棲なんて、誰がどう考えたっておかしい。
でも今この家には、それをわかってくれる人は誰もいなくて。頼みの綱だった八雲さんまでもが母に感化され、同棲する気満々だから怖い。