強引な副社長の婚前指南~偽りの極甘同居が始まります~
「あれ? お父さんは?」
 
さっきから姿が見当たらない。もしかして、私がこの家からいなくなるのが寂しくて、ひとりで部屋にこもってるとか? だったら八雲さんからの問いかけに同意なんてしなきゃよかったのに……。
 
なんて思っていたら。

「ああ、お父さんなら出かけたわよ。なんでも旧友と飲み明かすとか」

「飲み明かす……」
 
あんな父親でも、少しくらい寂しがってくれるんじゃないかと思った私がバカだった。八雲さんとの結婚が決まれば、ひとまず安心だというところなのだろう。勝手な人だ。
 
いろいろなことが積み重なって、どんどん気が重たくなってきた。今更同棲を断れる雰囲気でもないし、今日のところは八雲さんの家に行くしかないみたいだ。

「じゃあ、そろそろ行こうか、芳奈」

八雲さんは左手で私の荷持が入ったスーツケースを持ち、右手は当たり前のように私の手を握る。

「では、お義母さん。芳奈さんをお預かりします」

「こちらこそ、芳奈をよろしくお願いします。芳奈、八雲さんに迷惑かけないようにね」
 
いやいや、お母さん。迷惑かけられてるのは、私の方なんですけど……。


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