強引な副社長の婚前指南～偽りの極甘同居が始まります～

「こんな事？　なんのことだか、さっぱり意味がわからないな」

「この期に及んで、まだとぼけるんですか？　今日は結婚を前提に付き合っている恋人として振る舞う、ただそれだけでよかったのに。なんで婚姻届にサインして、同棲までオッケーを出してしまうんですか？　さっぱり意味がわからないのは、こっちですよ」
　
一気にまくし立てて息が上がる。

ハアハアと肩で息をしていると、八雲さんは私の右手の甲をそっと撫でた。急なことに驚いて引こうとした手を、今度は強く握られる。

「悪かった、そんなに怒らないでくれ。けどあの場合、嫌だとは言えないだろう。婚姻届は出さなきゃいいだけの話だし、同棲もほとぼりが冷めるまでだ」

「だからって……」
　
嫁入り前の娘が、自分が勤める会社の副社長とひとつ屋根の下で暮らすなんてありえない。しかも私は二十三年間、男の人と付き合ったことがない。