強引な副社長の婚前指南~偽りの極甘同居が始まります~
「わかったよ。芳奈の仰せのままに……」
 
余韻を残すようそう言うと抱きしめている腕を解き、王子さながら私の指先を優しく掴む。

八雲さんのやることに意味はないとわかっているの、そんな仕草でひとりドキドキしだした胸は収まる術を知らない。
 
もっと普通にしてくれればいいのに。いちいちやることが決まりすぎて、こっちの身がもたない。この胸のドキドキを収める方法があるのなら、誰か教えて!
 
そう心の中でお願いしたところで、そんなこと教えてくれる人は誰もいない。いるのは八雲さんだけで、できれば彼には聞きたくない。いや、聞けない。
 
残念……。
 
八雲さんに手を取られたままオートロックのマンションの中に入り、コンシェルジュのいる豪華なロビーを抜け、エレベーターで昇ったのは四十八階。

「これってもしかして、最上階ですか?」

「だな。何、高いとこ苦手?」

「いえ、そういうわけじゃないんですけど……」


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