強引な副社長の婚前指南～偽りの極甘同居が始まります～

「芳奈ちゃん、どうしたのかな？　顔が赤いみたいだけど？」
　
八雲さんも同じようにしゃがみ込み、私の顔を上げようと頭に手をかけた。驚いて反射的に、その手を払いのける。

「うるさい！　あっち行って！」
　
副社長ということも忘れて、思わず暴言を吐く。しまった……と思っても後の祭り。恥ずかしいやら申し訳ないやらで、顔を上げられなくなってしまった。

「お～怖。はいはい、わかったよ」
　
すぐに立ち上がった八雲さんは、笑いながらキッチンへ向かって歩き出す。こそっと覗き見してみると……。
　
嫌な思いをしたはずなのになぜか笑っているから、たぶん怒ってはいないみたいだけど。

やっぱり何もかも距離が近い八雲さんには、どうにも慣れない。子供っぽいとわかっていても、ついあんな態度をとってしまう。

元はと言えば八雲さんがよくないと思うけれど、でもさすがに『うるさい！　あっち行って！』は言い過ぎた。ここは私から謝るべき、なんだろうけれど……。