強引な副社長の婚前指南~偽りの極甘同居が始まります~
なんだぁ、コイツ。
飲みすぎているからか、少々口が悪くなる。と言っても声に出しているわけじゃないから、そんなこと気にしない。
別に名前なんて、聞いても聞かなくてもどっちでもよかった。ただちょっと、上から目線の偉そうな態度が気に入らなかっただけ。それだけのことに、目くじらを立てたって仕方がない。
ここはカクテルグラスを倒さなくて済んだことの礼を言って、速やかにここから立ち去っていただこう。
顔に笑顔という仮面を貼り付け、クルッと男性に向き直る。
「あなたのおかげでグラスを倒さずに済みました。ありがとうございます」
それだけ言って顔を元の位置に戻し、男性には見えないようにペロッと舌を出す。
もうこれで用はない。ひとりで飲みたいんだから、さっさとどこかに行っちゃってよ。
そっぽを向いて知らんふりを決め込み、カウンターテーブルに置かれたグラスに手を伸ばす。
「ダメだ。これはちょっとお預け」
掴みかけたグラスをひょいと取り上げられ、怒りとともに息を吐く。