強引な副社長の婚前指南~偽りの極甘同居が始まります~
「盗み聞きしたんじゃない、芳奈の声が大きいから聞こえてきたんだ」
「そ、そうなんだ……。それは失礼しました」
大きな声を出したのは悪かったけれど、女性に向かってズケズケ物を言うのはどうかと思うんですけど。しかも、呼び捨てのことはスルーですか? まあ、どうでもいいんだけど。
小さく肩を落とし、諦めの息を吐く。
「今日いきなり、父親にお見合いの話をされてね。しかもまだその相手に会ってもいないのに、夫になる人だって言われて。頭にきたから咄嗟に『結婚したい人がいる!』って嘘ついちゃって」
「まあ、その場しのぎの嘘だな。でもそれはそれで、いいんじゃないのか?」
「私のそのつもりだったんだけど……」
世の中そんな、都合よく動いてくれない。
「私、クリキホールディングスって会社で働いてて」
「はあ!? クリキホールディングス?」
「な、何よ、そんなに驚いて」
クリキホールディングスといえば、誰もが知っている大企業だ。私がそんなところで働いているなんて、思ってもみなかったんだろう。