強引な副社長の婚前指南~偽りの極甘同居が始まります~
梅岡芳奈、二十三歳。
二週間ほど前に購入したピンクのラグジュアリードレスに、バックスタイルをキュートに見せてくれるリボンの付いたパンプス。肩まで伸びた髪はハーフアップにまとめ、首元には真珠のネックレスと揃いのイヤリング。普段ほとんどしないお洒落をしてキメてきたのは、他でもない今日の主役のため。
会場の入口には【梅岡秀治郎社長の還暦を祝う会】と書かれたボードがあって、それを横目で見ながらその場を足早に駆け抜けた。
梅岡秀治郎は何を隠そう私の父であり、国内最大手『四星百貨店』社長。今日の還暦祝いの主役その人だ。
還暦を祝う会を知らされたのは、ちょうど一ヶ月前。父の秘書である永田さんが私の部屋にやってきて、一通の封筒と『強制参加でございます』と不穏な言葉を発した。
「な、何よ、強制参加って!」
そう叫んでも彼は表情ひとつ変えず、眼鏡のフレームをクイッと上げて無言で去っていった。そのあと封筒を眺め、部屋でひとり途方に暮れたのを今でもはっきりと覚えている。
できれば父と、顔を合わせたくないんだけれど……。