強引な副社長の婚前指南～偽りの極甘同居が始まります～

どうして、こんなときに……。
　
脱力感が身体中を襲い、どうしようもなく千登世先輩を見つめる。

「その顔は、心当たりがありそうね。私でよければ話聞くけど？」
　
優しい瞳に包まれて、小さく頷く。
　
千登世先輩につれられて表面玄関まで行くと、部長が呼んでくれたタクシーに乗り込む。

するともう一台タクシーが私たちが乗ったタクシーの前に止まり、中から綺麗な女性が表れる。何気にその女性を目で追っていると、表面玄関から出てきた男性に腕を絡めた。

「ねえ芳奈。あれって副社長じゃない？　ということは、あの腕を組んでる女が四星百貨店の社長の娘？」
　
違う。あの女の人は、四星百貨店の娘じゃない。だって本物は、ここにいるんだから。

でもそうか。最近八雲さんの帰りが遅かったのは、その人と一緒だったからなのね。なんだ、そういうこと。
　
そんなこととはつゆ知らず、仕事で忙しいと思って心配してたのに、なんか損した気分。